コラム

ジェネンテックと並び世界で最も成功したバイオベンチャーと言われる「アムジェン」、日本では3年前からアステラス製薬との合弁会社「アステラス・アムジェン・バイオファーマ」として進出していますが、2020年にはアムジェンの完全子会社となる予定です。今回はこのバイオベンチャーの成り立ちについて見てみましょう。

 

1980年、ウィリアム・ボウズという投資家により、ロサンゼルス北西のサウザンドオークスに「Applied Molecular Genetics」(アムジェンの当初の呼称)が設立されました。これがアムジェンの始まりです。

 

研究者ではなく経営者が主導して設立したという点ではアムジェンとジェネンテックは全く同じです。そしてその2社ともに現在世界で最も成功したバイオベンチャーとして君臨している。このことは、単に技術が優れているというだけではバイオベンチャー企業としての成功は難しく、ビジネスとして成功するかどうかを十分に見極める力を持った人物が必要だということを意味していると思います。

 

実は発足に当たって、ボウズは何を開発すべきかを検討する科学研究顧問委員会を組織し、全米の主な研究者を集めています。しかし、顧問委員会の専門分野が工学、農学、理学、医学と様々なこともあり、開発品目を絞り込めずにいました。それを束ねたのがアムジェン初代CEOのジョージ・ラスマン、伝説のCEOと言われる人物その人です。

 

当時アボットの診断薬部門の副社長だったラスマン氏は、年収が3分の2になることを覚悟の上で1980年10月、アムジェンのCEOに就任、それまで進行していた複数の開発プロジェクトを大幅に絞り込み、エリスロポエチン(EPO)とG-CSFの2つに集中することを決定します。

 

EPOは腎臓で産生される赤血球増殖因子であり、腎機能不全に陥るとこのEPOの分泌低下による赤血球の減少が起こり、貧血を引き起こすことが以前から知られていました。(腎性貧血)
そのため、EPOは腎性貧血の治療薬として注目され各社が開発にしのぎを削っていましたが、1983年世界に先駆けEPOのクローニングに成功したのがこのアムジェンです。

 

EPOの遺伝子クローニング成功のニュースを聞いて、開発提携の話をラスマン氏に持ちかけたのが、当時キリン医薬品事業部の下坂皓洋氏。
その後、キリンの1200万ドルの出資のもとキリン・アムジェンが設立され、EPOを共同開発する体制が整い、それを機にEPOの臨床開発が加速され、1988年9月ついにEPO製剤「エポジェン(一般名:エポエチンアルファ)」の販売が開始されることになります。
ちなみに、この「エポジェン」 は日本国内では現在、協和発酵キリンが「エスポー」として販売しているもので、競合企業の中外製薬が販売している「エポジン(一般名:エポエチンベータ)」ではありません。
名前が似ているので間違えてしまいそうですが、「エポジェン」は「エスポー」です。

 

中外製薬の「エポジン」は、米ジェネティクス・インスティテュート(GI:現在は米ファイザーの一部となっている)からの導入だったのですが、当時、アムジェンはこのGI、中外製薬を相手取り、熾烈な特許訴訟を展開、最終的に勝訴を勝ち取ったという経緯があるのです。

 

というのは、アムジェンが申請したEPOの遺伝子特許は1987年10月に成立したのですが、実はさかのぼること4か月前GIが申請していたEPOの精製法および遺伝子特許が成立しており、果たして遺伝子特許が有効なのか、それとも精製したタンパクをもとにした物質特許が有効なのかを巡って訴訟が起こされたのです。

 

その結果はどうだったか?
1審判決ではGI側の主張が認められたものの、2審では1審の判決を覆し、EP0の遺伝子単離日を発明日と認める判決が下され、アムジェンがEPOの独占的販売権を勝ち取ったのです。

 

この「エポジェン」がアムジェン急成長の原動力となり、その後も同社は、持続型EPO「アラネスプ(一般名:ダルベポエチンアルファ)」、G-CSF製剤「ニューポジェン(一般名:フィルグラスチム)」、持続型G-CSF「ニューラスタ(一般名:ペグフィルグラスチム)」を続々と開発、発売していきます。いずれも国内では協和発酵キリンがそれぞれ「ネスプ」、「グラン」「ジーラスタ」として販売しているものです。

 

2001年には米イミュネックスを買収し、関節リウマチ治療薬である可溶性TNFレセプター「エンブレル(一般名:エタネルセプト)」の権利を取得します。また、大腸がん治療薬の完全ヒト型抗EGFRモノクローナル抗体「ベクティビックス(一般名:パニツムマブ)」、骨粗鬆症治療薬の抗RANKL抗体「プラリア(一般名:デノスマブ)」などもアムジェンの製品です。
いずれも日本国内では、それぞれファイザー、武田薬品、第一三共が販売しているものであり、デノスマブは「ランマーク」として、骨髄腫による骨病変に対する治療にも使われています。最近では、今年アステラス・アムジェン・バイオファーマとしては、国内初の新薬となる家族性高コレステロール血症治療薬の抗PCSK9抗体「レパーサ(一般名:エボロクマブ)」を発売しています。

 

一方、EPOの特許訴訟に敗れたGIは、その後アメリカンホームプロダクツ(ワイスの前身)に買収され、現在はファイザーの一部となり、会社としては消滅してしまいました。
一つ間違えれば、あるいはアムジェンが現在のGIの姿だったかもしれず、いかに一つの特許がバイオベンチャーの盛衰に大きくかかわってくるかということを思い知らされる象徴的な事例と言えるのではないでしょうか。

 

アムジェンに関する読み物としては、一昨年発売された「世界最高のバイオテク企業」(ゴードン・バインダー著、日経BP社)があります。アムジェンの元CEOがアムジェン流の企業経営について余すところなく書き記したドキュメントものです。ご興味のある方はぜひお読み下さい。


コンサルタント藤川

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