コラム

今や、製薬企業は画期的新薬を開発し続けなければ生き残れない時代です。

そのため、従来のような自前で研究開発から販売まで行うのではなく、バイオベンチャーと提携し革新的新薬を生み出そうという動きが以前にも増して顕著になってきました。

今非常に注目されるバイオベンチャーですが、そこで今回は世界を代表するバイオベンチャーについて見てみたいと思います。

 

遺伝子クローニングのパイオニア「ジェネンテック」

私がこの聞き慣れないベンチャー企業の名前を初めて耳にしたのは、成長ホルモン製剤専門MRとして某外資系製薬企業に転職した2000年(平成12年)のことでした。

当時はさほど興味もなく、インスリンと成長ホルモン(GH:Growth Hormone)の遺伝子クローニングに世界で初めて成功した企業、程度の認識でしかありませんでした。このバイオベンチャーのことをさらに詳しく知るようになるのは、現在の転職コンサルタントに転身してからです。

 

ロシュグループの一員として、その独自の抗体創製技術を武器に、「アバスチン(一般名:ベバシズマブ)」「ハーセプチン(一般名:トラスツズマブ)」「リツキサン(一般名:リツキシマブ)」など数々の大型バイオ医薬品を生み出し、今や同グループ快進撃の原動力となっているジェネンテック、その誕生と道のりはどのようなものだったのでしょうか。

 

ジェネンテックの始まりを作ったとも言えるある出来事があります。

1972年、スタンフォード大学のスタンレー・コーエン博士とカリフォルニア大学サンフランシシコ校のハーバード・ボイヤー博士の二人による、ハワイの学会会場近くのレストランでの会談です。

この時、この二人は互いの技術を組み合わせて遺伝子をプラスミドに組み込み細胞に導入し、遺伝子を発現させることを思いつきます。

 

これが、いわゆる「遺伝子組み換え技術」ですが、具体的には、まず生化学上のツールを用いて、特定のタンパク質を作らせるための情報を持つDNAを取り出し、必要に応じてDNAに修正を加えます。続いて、そのDNAを細菌もしくは哺乳類の細胞に組み入れて細胞を培養し、その細胞が作り出したタンパク質を取り出し精製するというステップを踏みます。

 

これを基本構想として、1974年、遺伝子組み換え技術に関する基本特許「コーエン・ボイヤー特許」が申請されます。その基本特許のことを知ったベンチャーキャピタリストのロバート・スワンソンは、ボイヤー博士に電話をかけ、面会を申し入れます。3時間の話し合いの終了後、二人は共同で会社を立ち上げることに同意していました。そして1976年4月、南サンフランシスコの倉庫にひとつのベンチャー企業が設立されました。これがジェネンテック社の始まりとなったのです。

 

冒頭で述べたように、1978年、インスリンの、そして翌年1979年、成長ホルモン(GH)の遺伝子クローニングに成功し、インスリンについてはイーライリリー(GHはカビ・ビトラム、インターフェロンはロシュと提携)の支援のもと開発を進め、1982年、

世界初の遺伝子組み換え医薬品としてインスリン製剤の上市を果たすに至りました。

これは、今までブタの膵臓から抽出していたインスリンが、ジェネンテックの遺伝子組み換え技術により、人工的に大量生産が可能になったという実に画期的な出来事でした。

これにより、糖尿病に苦しむ数多くの患者さんの福音となったのは言うまでもありません。

 

しかし、その後1987年、血栓溶解剤として発売されたTPA(Tissue Plasminogen Activater)の売上が思うように伸びず、またTPAの開発に予算の大半をつぎ込んでしまった結果、新しいプロジェクトに投入するための資金不足に陥り、ジェネンテックは株価急落のピンチに見舞われてしまいます。

そして1990年、スイス・ロシュに株式の一部を所有され、同社の子会社として再出発することになりました。ここから数年間ジェネンテックは低迷の時代に入ることになります。

 

しかし、ロシュの豊富な資金力に支えられ、その後ジェネンテックは革新的な抗体医薬品を次々に開発していきます。1997年には非ホジキンリンパ腫治療薬「リツキサン」(一般名リツキシマブ:抗CD20抗体)を、1998年には乳がん治療薬「ハーセプチン」(一般名トラスツズマブ:抗HER2抗体)を、そして2004年には大腸がん治療薬「アバスチン」(一般名ベバシズマブ:抗VEGF抗体)を上市し、世界で最も優れたバイオベンチャーとして見事復活を遂げるに至ったのです。

 

ジェネンテック創製の抗体医薬は最先端技術の結晶とも言うべきもので、そのカバー領域はがんのみならず、加齢黄斑変性症治療薬「ルセンティス」(一般名ラニビズマブ:アバスチンの誘導体の抗VEGF抗体)、難治性気管支ぜんそく治療薬「ゾレア」(一般名オマリズマブ:抗IgE抗体)、乾癬治療薬「ラプチバ」(一般名エフェリズマブ:抗CD11a抗体)など、臓器横断的な難病全般にわたっております。

 

ロシュはその後ジェネンテックの株式を市場で売り進め、2004年の段階では発行済株式の55%まで保有するに至ります。そして2009年、ロシュはジェネンテックの残る45%の未保有株式を全て買い取り、完全子会社化を敢行します。これにより、ロシュの遺伝子診断技術とジェネンテックの抗体創薬技術が、医薬品開発にあたり連携して機動的に動かせるようになり、ロシュグループの目指す個別化医療をスムーズに進める体制が整いました。

同グループは現在も個別化医療推進のリーデングカンパニーです。

ジェネンテックについてご興味のある方は、一昨年発売された「ジェネンテック 遺伝子工学企業の先駆者」(サリー・スミス・ヒューズ著、一灯舎)をぜひご一読下さい。

 

ところで、ロシュは残り45%のジェネンテック株をいくらで買い取ったのでしょうか?

その額、実に468億ドル(約4兆5700億円)!

全株式に換算すると1000億ドル(約9兆7000億円)近くになっていた計算です。

とてつもない金額であり、メガファーマといえども簡単に手を出せるような案件ではなかったはずです。それを考えるとジェネンテックの株価がまだ低かった時代にすでに55%を取得していたロシュの先見性はさすがとしか言いようがありません。

コンサルタント:藤川

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