コラム

<個別化医療とバイオマーカー>

前回コラムで、「個別化医療」の創薬には「バイオマーカー」が必須だというお話をさせていただきました。では、具体的にバイオマーカーにはどのようなものがあるのでしょうか。

 

ひとくちにバイオマーカーといってもその範囲は広いのですが、ここでは“薬剤の反応性に関するバイオマーカー”という定義でお話したいと思います。

それらは大きく、薬剤の有効性の指標となるバイオマーカーと、薬剤の安全性の指標となるバイオマーカーに分けられます。

 

有効性バイオマーカーは、これらのマーカーが陽性である患者さんには、その薬剤が効くということを示し、安全性バイオマーカーは、その薬剤を投与した場合、副作用が起き易いということを示すというものです。

 

有効性バイオマーカーの代表格は、以前お話しした「HER2の過剰発現」、これは乳がんの分子標的薬「ハーセプチン」の効果の指標となっています。

その他、肺がん治療の分子標的薬「ザーコリ(一般名:クリゾチニブ)」には「ALK融合遺伝子陽性」、成人T細胞白血病リンパ腫に使われる抗体医薬品「ポテリジオ(一般名:モガムリズマブ)」には「CCR5陽性」、主に大腸がんに使われる抗体医薬品「アービタックス(一般名:セツキシマブ)/ベクティビックス(一般名:パニツムマブ)」には「RAS遺伝子非変異型」といったような有効性バイオマーカーがあります。

 

安全性バイオマーカーの代表例としては、抗がん剤「カンプト(一般名:イリノテカン)」の「UGT1A6」「UGT1A28」、抗凝固薬「ワーファリン(一般名:ワルファリンカリウム)」の「VKORC1」「CYP2C92」「CYP2C93」「Protein C不足」などがあります。

 

これら「バイオマーカー」を薬剤開発の初期段階で見つけ出すことは、「個別化医療」を進めるうえで非常に重要であるということは以前お話した通りです。

 

<バイオマーカーと疾患システムバイオロジー>

興味深いのは、これらバイオマーカーの解明が進んでいくことにより、一方でバイオマーカーをもとにした疾患の再分類が進んでいる、ということです。

 

その典型的な疾患が乳がんです。

HER2が過剰発現しているタイプ、エストロゲン受容体(またはプロゲステロン受容体)が陽性のタイプ、いずれも陰性のタイプ(トリプルネガティブ)という極めてシステム化された分類になっており、それぞれのタイプに即した治療がシステマティクに行われ、がんの中でも治療成績の良い部類に入ってきているようです。

 

さらにお話しますと、「HER2過剰発現」は何も乳がんだけではなく、胃がんでも見られる現象であることがわかっており(現にハーセプチンもそのタイプの胃がんには使うことが出来ます。)、がんの分類も、乳がんとか胃がんといった臓器別の分類というよりは、「HER2過剰発現を伴うがん」といった、バイオマーカーによる臓器横断型の分類で括られるようになっていることは、ぜひ注目したいところです。

 

そして、疾患(特にがん領域)を分子レベルの異常やゆがみによるものととらえ、病態を解明していこうという考え方は「疾患システムバイオロジー」とか「システム・パソロジー」などと呼ばれていて、近年研究がさかんに行われているようなのです。

 

これは、個別化医療やゲノム医療、次回お話させていただく予定の「次世代シーケンサー(NGS:Next Generation Sequecer)などとも関係する話であり、ご興味ある方は、田中博編著『先制医療と創薬のための 疾患システムバイオロジー オミックス医療からシステム分子医学へ』(培風館)をご一読下さい。

 

ただ、文系の方にとってはかなり難解な内容だと思います。(かく言う私は正直申しましてほとんど理解出来ませんでした。)しかしながら、少なくともオンコロジー領域に携わる方々には一読の価値ある本だと思います。ゲノミクスをはじめとするオミックスからNGS、システム医学まで、かなり専門的に書かれていて、今後の個別化医療、ゲノム医療に関する貴重な情報が得られる一冊だと思うからです。

 

次回はバイオマーカー探索のツールとして今や必須の存在になっている「次世代シーケンサー(NGS:Next Generation Sequecer)についてお話したいと思っております。

 

~クリゾチニブ誕生の舞台裏~

ALK阻害薬として知られるザーコリ「一般名クリゾチニブ」は日本オリジンの分子標的抗がん剤です。2007年、当時自治医科大学の間野博行教授は、融合型新規がん遺伝子EML4-ALKを発見、これは、ヒトの2番染色体に存在するEML4遺伝子とALK遺伝子との間で染色体逆位が生じた結果出来た遺伝子であり、肺がんの発症に中心的な役割を担うということを突き止め、本研究成果を「Nature」に発表します。

この発見は、固形がんには染色体異常は関係がないという従来の説を覆すもので、それ自体が驚きでしたが、さらに驚くべきことは、この発表を受けて米製薬大手「ファイザー」がとった動きです。もともと同社がcMet阻害薬として開発していた「PF-02341066」がALK阻害作用を持っていることを確認し、ALK阻害薬としての開発に舵を切ったのです。

その結果、ALK融合遺伝子のある患者さんに著効を示し、開発からわずか4年で承認・発売に至るというスピード開発を成し遂げました。

バイオマーカー特定による早期開発の非常に素晴らしい成功例ではありますが、出来ればそれを日本の会社にやって欲しかったと思うのは私だけでしょうか。

 

 

コンサルタント:藤川

予約制 夜間・休日 電話転職相談 「転職相談したいんだけど、なかなか時間が取れない…」そんなあなたをサポートします

無料会員登録受付中職務経歴書・レジュメの書き方や面接対策による転職サポート

PageTop