コラム

今まで、ゲノムやシーケンサーを巡ってのお話をさせていただきました。ここまで読んでいただき、疑問になられたことがあるのではないでしょうか。話の中に日本企業のことが全く出て来ないではないか。日本はゲノム解読やシーケンサー開発で一体どんな働きをしたのか?当然気になるところだと思います。

 

以前もお話させていただきました通り、次世代シーケンサー(NGS)のトップランナーと言われるメーカーは、ロシュ、イルミナ、サーモフィッシャーサイエンティフィックなど欧米のメーカーばかりです。もちろん日本のメーカーもNGSの開発をしていなかったわけではありません。しかし、欧米勢に大きく遅れをとってしまったことは確かなようです。

 

ちなみに2003年に完了した「国際ヒトゲノム計画」の国別貢献度は下記の通りです。

 

アメリカ 59%

イギリス 31%

日本    6%

フランス  3%

ドイツ  1%

中国   1%

 

日本の国力や科学技術力を考えると6%という数字はあまりにも小さい数字と言わざるを得ません。アメリカは別格としても、イギリス並みの数字を出していてもおかしくはなかったはずです。なぜ、このような結果になってしまったのでしょうか?

 

惨々たる結果に終わった「国際ヒトゲノム計画」での日本の貢献度ですが、

しかし実は、今から30数年前、1970年代の終わりに、手作業による解読では、30億にものぼるヒトゲノム全てを読み終えるのに300年はかかると言われていた時代に、ヒトゲノムを機械で高速に読み取ろうという壮大なアイディア、いわゆる「DNA高速自動解読構想」を提唱していた人物が日本にいたのです。

 

その人とは「和田昭充(わだ あきよし)」、当時理化学研究所ゲノム科学総合研究センターの所長を務めていた人物です。

和田氏こそ、その後開発されることになるシーケンサーの基本原理を世界に先駆けて明らかにした人なのです。

明治維新の立役者、木戸孝充(桂小五郎)の曾孫に当たる和田氏は、もともと東大物理学教室で「生物物理学」という当時誕生して間もない新領域の学問を研究していました。この時の同僚には、のちにノーベル物理学賞に輝いた小柴昌俊氏。文部大臣を務めた有馬朗人氏、日本のコンピューターのパイオニアである後藤英一氏などがいたといいます。

 

 

「生物物理学」とは、自然科学の二本柱である物理科学と生命科学お一体化と融合を目指す学問であり、「生物の本質を極めようとして自然科学全体を眺めると物理の本質が見えてくる。その逆もまた真だ。自然科学は一つの地下水脈でつながっている。」という考えを持っていた和田氏は、システマティックに全体のバランスを考える工学的発想が、バイオテクノロジーの分野に必ず起きると考えていました。

 

1979年のある日、ある腕時計工場を見学する機会があり、そこにある生産ラインを見学していました。生産ラインでは、材料や油などが組み合わされ、一定の流れの中で次第に製品の形になり、30メートルほど先で完成品が自動的に送り出されていました。

これを見た和田氏は、「材料を試験管に、油を試薬に置き換えれば、DNAの自動解読に応用できるのではないか。」と考え、これが和田氏の提唱した「DNA高速自動解読構想」のヒントになったと言われています。

 

この和田氏の構想は、1981年度の国家プロジェクトに「DNAの抽出・解析・合成技術の開発に関する研究」として採用されることになります。いわゆる「和田プロジェクト」です。A(アデニン)、T(チミン)、G(グアニン)C(シトシン)の4種類からなる塩基の一つを仮に1ミリメートルとすると、ヒトのDNAはこれが30億連なっている長さであり、単純に掛け算すると、3000キロメートルにもなります。これは東京-香港間の長さに相当します。ヒトゲノム解読とはこの長さの塩基配列を延々と読み続けなければならないということなのです。和田プロジェクトは簡単に言ってしまうと「この気の遠くなるような繰り返しの続く解読作業の全行程を、コンピューターとロボットに助けられたオートメーション技術によって高速化・規格化を図る」というもので、のちのシーケンサーを完成させることを目的としたものに他なりませんでした。

 

しかし、そのプロジェクトは結局うまくいきませんでした。その結果日本発のシーケンサーを世界に先駆けて作り出すことも出来ず、その結果、「国際ヒトゲノム計画」でもその後のシーケンサー開発でも欧米勢に先を越される羽目になってしまったのです。これは一体なぜなのでしょうか?

 

ご興味のある方はぜひ「ゲノム敗北 知財立国日本が危ない」(岸宣仁 著 ダイヤモンド社)をご一読下さい。そこには、世界に先駆けて打ち上げたゲノム高速自動解読構想が、物理学者の生物学への介入に拒絶反応を示す旧態然とした研究者や10年、20年先を読み切る先見性のない官僚などによって、次々に潰されていく様子が克明に描かれています。

 

十分な実力を持ちながらゲノムという舞台で日本が十分な存在かを示せなかったこと、これは非常に残念なことであり、「日本人に独創性がないのではなく、日本という国に独創性の芽を摘んでしまう風土がある。」という和田氏の言葉が妙に説得力をもって胸に響いてくるのです。

 

コンサルタント:藤川

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