コラム

<NGSが主役のポストゲノム時代>

2003年にヒトゲノムが完全解読されたことにより、その後のゲノム研究は、単にDNAの塩基配列を調べるということから、そのDNAからの転写によって生じるRNAの発現状況はどうなっているのか(トランスクリプトミクス)、そのRNAが翻訳されることによって産生されるタンパク質はどのようなものか(プロテオミクス)、などの研究にその焦点が移っていきます。いわゆる「ポストゲノム」時代の到来です。

 

「ポストゲノム」研究の当初、主役となっていたのはDNAマイクロアレイ法と言われる手法だったようです。スライドガラス上にターゲットのDNAを貼り付けて、蛍光標識で検出し、それをコンピューターで解析するというもので、従来のノーザンブロット法やRT-PCR法のような個別の遺伝子の発現解析に比べ、遺伝子の網羅的な解析が出来るという点で非常に利便性が高く、広く研究者の間で使われていきました。

 

ところが2005年に、世界初の次世代シーケンサー((NGS:Next Generation Sequencer)が発売され、NGSは単にDNAの塩基配列を決定するというだけの用途から、やがて「ポストゲノム」時代のテーマでもある、転写研究やエピゲノム解析(DNAの塩基配列には変化がないのに、その発現型に変化が見られる遺伝子異常などを調べる)などにも使われるようになっていくのです。

そして、それはマイクロアレイ法よりも定量性、網羅性に優れ、今後コストのさらなる低下により、NGSによるゲノムの網羅的解析が主流になっていくであろうと言われているのです。

 

そして医療分野では、「個別化医療」の創薬において必須となる「バイオマーカー」や、がんなどの疾患関連遺伝子の探索も、今やこのNGSを使った研究開発がさかんに行われているといいます。つまり、医薬品の研究開発も、がんのメカニズム研究も、幹細胞研究も、NGSの存在なしには考えられないという時代になっているのです。

すでに一部がん専門病院などでは、NGSを日常診断に使うための検査室を設置したという話も聞きますが、将来的にはこのNGSが全国規模で臨床検査に広く使われるという時代が来る可能性があります。

 

そのような時代だからこそ、MRのみなさんにも、ぜひこの「次世代シーケンサー((NGS:Next Generation Sequencer)」に興味を持っていただきたいと思っています。

 

<コンシューマーゲノミクスと「23アンドミー」>

ちょっと横道にそれますが、パーソナルゲノムや個別化医療と関係ある面白い話なので、書いておきたいことがあります。それはパーソナルゲノムサービスを行っている企業についてです。

 

各個人が自分のゲノム(染色体レベルでのDNA総体)情報を知ることが出来る、少なくとも希望する人には知ることが出来る時代がやって来ました。

そして、病気になった時、医療機関はその個人のゲノム情報に基づいて治療方法を選択するという時代、それが「パーソナルゲノム」の時代です。

 

現時点では、コストの問題、ゲノムという個人情報を保護する法整備が出来ていないという問題などで、まだそこまでには至っていません。

しかし、特定の個人から依頼を受け、その人のゲノムを解読し、特定の病気へのかかり易さなどを調べ、その人にフィードバックするという消費者直販サービスを行う企業があるのです。

そのビジネスモデルは次の通りです。

 

  1. お客さんはオンラインでキットを購入する
  2. 送られて来たキットを使って口腔内をヘラでこすったり、唾液をチューブに入れたりして、キットを返送する。
  3. 企業は、マイクロアレイなどを使って遺伝子解析を行い、独自のアルゴリズムに従って、特定の疾患への罹患率、薬の副作用リスク、先祖の出自などの情報を算出する。
  4. お客さんはWEB上でその結果を閲覧する。

 

その代表格こそ米国シリコンバレーに本拠を置く「23アンドミー」であり、いわゆるコンシューマーゲノミクス企業の先駆的存在です。23というのはヒトの染色体数が23対であることが由来らしいです。つまり、社名は「染色体と私」という意味。この企業の創設者は2人の女性ですが、そのうちの1人、アン・ウオジスキ氏はグーグルの創設者の1人であるセルゲイ・ブリン氏の元奥さんだそうです。コンシューマーゲノミクス企業と巨大IT企業の「取り合わせ」、これは面白いですね。

膨大なゲノムデータを解析するためには、スーパーコンピューターによる情報処理が必要不可欠であり(バイオインフォマティクス)、パーソナルゲノムとITとは切っても切れない関係ということの象徴的な事例のように思います。

 

その他、「デコード」、「ナビジェニックス」、「パスウェイ・ジェノミクス」といったコンシューマーゲノミクス企業が現れましたが、当局の規制強化に伴い次第に鳴りを潜めていきます。2012年に、デコード、ナビジェニックスはそれぞれアムジェン、ライフテクノロジーズ(現サーモフィッシャーサイエンティフィック)に買収され、パスウェイ・ジェノミクスは経営破綻し、今この業界で生き残っているのはほとんど23アンドミーのみと言って良い状態となりました。

 

このあたりのお話にご興味ある方は、ケヴィン・デイヴィーズ著・武井摩利訳『1000ドルゲノム 10万円でわかる自分の設計図』(創元社)をご一読下さい。

いわゆる専門書ではなく、業界に関するノンフィクション作品ですので、文系の方にも抵抗なく読める一冊だと思います。

私が以前書かせていただいた次世代シーケンサー((NGS:Next Generation Sequencer)を巡る話も大変興味深く書かれていまして、ワクワクしながら読めると思います。

私が知る限り、細かい技術論に偏らず、NGSとパーソナルゲノムの歴史・概略について、解り易く書かれた本はこの本だけです。

 

ぜひご一読をお勧めします。

 

 

コンサルタント:藤川

予約制 夜間・休日 電話転職相談 「転職相談したいんだけど、なかなか時間が取れない…」そんなあなたをサポートします

無料会員登録受付中職務経歴書・レジュメの書き方や面接対策による転職サポート

PageTop